「子供だけに優しく」ではなく「人に優しく」ありたい

 

「子供優先」を強要されて、大人の自分が楽しむ権利を奪われてしまった経験はありませんか。私はあります。テーマパークのオタクをやっている人、ファミリー優遇な空気の現場に行っている人、スポーツ観戦が趣味の大人とかでも経験しがちなことかなぁと思います。

(先に断っておきますが、これは「子供への嫌悪」や「子供に優しくすることへの否定」ではなく、「子供優先」「子供だから許す」を赤の他人に強要して他人の権利を奪う大人に対して疑問を抱いているというお話です。)

 

初めてそれを感じたのは、高校1年生の頃に友人と行った動物園でのことでした。私はライオンが大好きなので、窓越しに間近にライオンを見ることができるライオンバスに乗ることをとても楽しみにしていました。ところが、実際に乗車をすると「お子様を前に入れてあげてください」というアナウンスと共に窓と私達の間に子供達が乗り込んできて、ライオンが来ると立ったりしゃがんだり手を伸ばしたりと私たちの視界を遮ったのでした。保護者の方々はご自分の視界なんてどうでもよくて、お子様たちが楽しめればそれでよかったのだと思います。だけど私たちは私達が楽しむために行ったから、子供料金100円で楽しめた子供達とそれよりも高い大人料金(高校生~)360円を払ってただ知らない子供達の後ろに突っ立っていただけの自分たちを思うとなんだか蔑ろにされたようで悲しくて、二人してすごくテンションが下がってしまったことを憶えています。当時は15歳、お小遣いをバイト代だけで賄っていました。大人扱いもされるし子供扱いもされる、そんな年齢だからこそなおさらこんな気持ちになったのかもしれません。

それからは「当人の厚意」という域を超えて他人の権利を奪ってまで強要される「子供優先」という状況に疑問を抱き始め、今も時々モヤモヤすることがあります。

 

私も子供にはそれなりに優しくする習慣があります。子供に限らずとも、他人に親切でありたいと思います。だけどそれは自分の権利を妨げない・あるいは自分が良いと思える範囲での損失においての話であり、義務ではないと思っています。チケット代を払うことや早い時間から整列して待つことによって正当に与えられたはずの自分の権利が見ず知らずの親子に不本意な形で奪われてしまうのは、気持ちがよくありません。キッザニアのように「子供のための施設」であって「大人はあくまで付き添い」と明確に定められている施設であれば良いのです。けれど、大抵の施設はファミリー層だけでなくカップル層や友人同士など「大人料金」を払う年齢の人のみで構成されたグループの来場をターゲットとした広告・企画も打ち出しています。そんな中で、実際に大人だけで行ってみたらあっちでもこっちも「子供優先」「子供優遇」とされると、私たちは笑顔で「どうぞ」と譲りつつも内心は「私達もこれ楽しみにして来たんだけどなー」と残念な気持ちになってしまいます。大人の方が客単価が高いのに、大切にしてもらえないどころか不本意な「子供優先」で不当な我慢を強いられたり、運営側の「子連れ様接待」に巻き込まれたりしているようで、客として蔑ろにされているようで少し寂しく感じます。「ファミリー層を呼び込むために家族連れに優しくしたい」というのは通常の待遇+αとして運営がやるべきことであり(お子様への特典を付ける・対象年齢を定めた子供向けのイベントを実施するなど)、そこにいる権利があるはずの一般客に対して「お子様のために前をあけてあげてください」「お子様に譲ってあげてください」というのは違うと思うのです。

 

また、子供を持つ親はあらゆることを「子供優先」で自分のことを後回しにして生活している人達が多いと思います。もうそれが染みついてしまっていて世の中のデフォルトが「子供優先」であるかのように錯覚することもあるかもしれません。そういう人からしたら列で子供の前に並んでいる人をみたら「なんで大人が?」と思うかもしれないし、子供を喜ばせるために付き添いとして出かけた先で大人がはしゃいでいるのをみたら違和感を覚えるかもしれません。ちょっとしたルール違反も「子供なんだからOK、許せない大人はちょっとおかしい」と思えてしまうのかもしれない。この文章も「これだから子供がいない人は…」と呆れながら読んでいるのかもしれません。しかし世の中には「子供中心」という軸ではない生活をしている人も多く居るのです。それは「自分中心」に考えて子供を蔑ろにするということではありません。大人も子供も人として尊重はしますが、必ずしも子供に甘やかす態度をとるとは限らないということです。それは本来、否定されることではないはずです。

 

「子供の頃に同じようにしてもらったはず」「自分が子供を産んだら同じようにするはず」ということから「お互い様」と言う人もいるかもしれませんが、誰もが子供の頃にそういう素敵な経験をしているわけではありませんし、誰もが親になるとも限りません。また、子供の頃に出来なかったことを自分で稼げるようになって初めて実現できた人達だってたくさんいるし、子供がいても「大人も子供も関係なく順番を守る」と教える親だって多くいます。他人が差し出してくれる厚意以上のものを強制すべきではないし、あらゆる施設の運営も、大人も対象としているサービスにおいて「お子様を優先して」という厚意を強制するアナウンスは、サービスに正当な対価を支払っている客の権利を蔑ろにしているように思います。

 

以前、本田翼さんが「子供に対して特に甘やかす態度はとらない」というようなことを言って一部から批判をされていましたが、人として尊重するという最低限のラインを守っていれば、あとは個人の自由であると私も思います。勿論、子供を甘やかしたい人が甘やかす分には否定はしないけれど、そうでない人が居心地が悪くなるような空間になるのは、「子供に優しい」環境をつくろうとするあまり「人に優しい」とは言えないと私は思います。「子供にだけ優しい」ではなく、大人も子供も男も女もそれらに当てはまらない人も同じように尊重できるバランスの良い人間になりたいし、そんな世界にしたいものです。