エスカレーター歩くな問題について思う事

つい先日、古市憲寿氏が「エスカレーター歩くな」キャンペーンに対して「禁止する意味がわからない」と発言していた。私もまさにそう思って色々と調べていたので、それについて書こうと思う。

 

私はエスカレーターでは右側を歩くことが多い。右側があいて居ない時は無理に進んだりしないが、移動時にはなるべくペースを崩さずに早く進みたいのだ。それは遅刻ギリギリだろうが時間に余裕があろうが同じことだ。

だからと言って私は「いつでも急ぐ人のために右側をあけろ」とは思っておらず、「歩く派」「とまる派」どちらかを排除するのではなく、状況に合わせて共存すべきなのでは?と考えている。例えば、百貨店のエスカレーターで右側をあけていても歩く人はほぼ皆無であるため、右側をあけるのは無駄に渋滞を招く行為だと思う。「知らない人同士でもきっちり二人ずつ乗れ」とまで効率の良さを重視すべきとは思わないけれど、連れが居る人は二人並んで乗った方がよさそう。しかし都内のラッシュ時のJR・私鉄の乗換駅にそれは当てはまらない場合も多いし、同じく都内のラッシュ時でも地下鉄の通常よりも長いエスカレーターではまた歩きたい人と止まりたい人との割合が変わってくる。一律に「右側をあける」または「両列立ち止まる」のどちらかを排除しようとするのは頑なすぎてナンセンスだ。

 

まず最近言われている「エスカレーターは片側が歩かれることを想定されて作られていない」という点だが、「エスカレーターの片側をあける」という風潮は大阪では1960年代後半ごろから、東京では1980年代後半ごろからあるらしい。つまり大阪では50年近く、東京では30年近くの間「片側は歩く人のために」というようにやってきた。それらのルールが定着する以前に作られたエスカレーターの片側歩行が想定されていないのはわかるが、それ以降に作られたものであれば「片側を歩くための仕様に」とまではいかなくても「歩かれても大丈夫」というようにはなっていなければおかしい。設置時やメンテナンス時にあらゆるケースを想定するであろう中でこの何十年もルールとして定着していた「片側は人が歩く」というケースを想定していないというのはあり得ないし、もしそうだとしたらこの数十年間、片側を歩くというルールがありながらそれを想定されていなかったことこそ問題ではないか。よって「片側を歩くことが想定されていないから歩いてはいけない」というのは説得力がない。「想定していない」というのはおそらく何か事故があった時の責任逃れ的な言い分でしかない。原則には例外がつきもの的な。

例えば、日立のサイトを見れば確かに「歩かないで」とも書いてあるけど「ベビーカーはのせないで」「ステップに荷物をのせないで」「小さい子供だけでなく高齢者も1人で乗らないで」「(大きな)物を運ばないで」など実は注意事項が多い。つまり「公式が歩くことを想定していない」という言い分を使うなら、スーツケースや旅行バッグを右側にドスンと置いている人も"想定されていない"ことになるし、足の悪い高齢者が付き添いなしで1人で乗ることも"想定されていない"ということになる。でも実際の利用状況は違う。これらすべてを守ったうえでこの主張をするのなら別だけど、「歩く派」を排除する根拠としてこれを使うには他の項目もすべて強く主張され守られない限りあまり説得力がないと言える。

参考:エスカレーターの安全なご利用について:株式会社日立ビルシステム

 

そしてよく出回っている「2列で立ち止まった方が輸送効率が高い」という検証動画について。あれはロンドンの地下鉄ホルボーン駅での実験である。この実験では2列で立ち止まって乗車することで最大で30%も効率がアップしたわけだが、これはどの駅のエスカレーターでも当てはまるものではない。あくまで「ある条件下で有効」という話であり、立ち止まる人専用エスカレーターがすべての駅での混雑緩和に適用できそうだという話ではない。あの実験では、実験と同じような効率化を見込めるテスト環境の条件として次の3つが挙げられている。

エスカレーターの高さが18.5m以上であること

エスカレーターのふもとの混雑を解消したいこと

・そこに複数の上りエスカレーターがあって、少なくとも一つは歩きたい人が歩けるようにしてあること

つまりこれは「複数本ある比較的長めの上りエスカレーターのふもとの混雑緩和」が主な課題であり、その降り口の混雑は想定されていないし、エスカレーターの長さや本数などの条件が違っても同じ結果は出ない。「危ないから歩くのをやめましょう」「エスカレーターは歩かないほうが効率的」という結果ではなくて「ある条件下では立ち止まり専用のエスカレーターを作ることも有効」という多様性の提案なのだ。

地下鉄や1フロア飛ばすタイプの長いエスカレーターというのは右側を歩く人がもともと疎らだったり、ある程度歩いたら左側の列の隙間に入ったり、あるいは止まってる人が途中から右側を歩いたりと、「一貫して右側を歩き続けて登る」という人はそう多くない。元から止まって乗る人が多く、右側は比較的スカスカなのだ。だからこそ、この実験では2列で詰めて乗るようにすれば最大30%も効率が上がるものと思われる。すべてのエスカレーターで2列で乗ることで効率化がはかれるわけではない。

実際、動画はよく見ると立ち止まる人が前にしっかり詰めて乗るのに対して歩く人の間隔が異常にあいているが、私が実際に毎日利用している駅のエスカレーターでは、止まって乗る人は前後1~2段あけて乗る人が多いし、歩く人はあんなに間隔をあいて疎らなんてことはなく列をなして絶え間なく歩いていく。私が想定している場面とはだいぶ違う。実験の結果に当てはまらない場合もあるのだ。

参考:The simulation that proves standing only escalators work on the Tube - Telegraph

 

それからよく見かけるのが「急いでいるなら(歩きたいなら)階段を使え」という言葉。100歩譲って「エスカレーターは歩いてはいけない」を守ったとしても、これについては頷くことが出来ず、何とも無責任な提案に感じる。なぜなら、JR・私鉄の乗換駅のラッシュ時の階段なんてエスカレーターに立ち止まって乗るよりも遅くなることもざらだから。まず、進む速度が人それぞれなのでとてもゆっっっくり進む人達が前を歩いていれば後ろに立つ人はそれに准じてどんどん渋滞が起こり、じわじわとゆっくり進むしかなくなる。それに加えて、「上り優先」「下り優先」というものを無視して隙間を縫って危険な逆走してくる人も多く、急ぐどころか普通に進むのすら困難である。「遅くなってもいいからどうしても歩きたいという人は階段を」というなら理解するが「急ぐなら階段を」というのは少なくとも私が利用している乗換駅のラッシュ時には当てはまらない。

 

また、「足が悪い人」「大きな荷物がある人」など階段を利用することが困難な人や「片側の手でしか手すりを持てない人」への配慮という点だが、そんなのはエスカレーター利用時に限らず階段でも平たい道でも普通は配慮することが大前提だ。事情がある人に対して悪態をついたり乱暴な態度で押しのけるのは、止まる歩くのルール以前に個人の人格の問題である。

しかしそもそも前述の注意書きの通り、エスカレーターは階段利用が困難な人にとっては便利であれど安全な乗り物ではない。動いている足場に乗り、動いている足場から降りるというのは足が悪い人には危険である。衣類などが強い力で巻き込まれる恐れがある・またギザギザとした形状などから、転倒時には階段よりも危ない。片手しか使えない場合は転んだ時や前の人の荷物が転げ落ちてきた時に上手く手をつくこともできない。大きなキャリーケースなどは一般的なエスカレーターのベルトの幅に合わず不安定で、少しでも手を離せば即座に下に落下して人を巻き込む事態になりかねない。本来はそれらの人たちはエスカレーターの利用は危険とされていて、エレベーターの利用が推奨されているのだ。ところが、「歩かないで」という注意があっても右側を歩くルールが適用されてきたことと同様、これらもまた実情は違っている。エレベーターは一般的な動線から外れてしまってわかりにくい・混雑時には待ち時間が生じるというデメリットもあるため、そのデメリットよりも多少のリスクをエスカレーターを選択して利用しているということになる。つまり、「危ないから」という理由で歩く派を排除するのであれば「危ないから」という理由で足が悪いひとや限られた方の手すりしか利用できない人・荷物が大きい人も排除されることになる。結局は双方ともに「階段・エレベーター利用時のデメリットとエスカレーター利用のリスクを天秤にかけ、自らの事情でそのリスクを選択して利用している」と考えられる。(中には階段やエスカレーターの設置がなく選択の余地がない場合もあるだろうけれど…)「危ないから」を理由に「歩く人」だけを排除するというのはあまりに一方的で乱暴である。

 

結論、その場の状況を見ながら右側で立ち止まってもいいし歩いても良いと私は考える。みんながお互いに配慮しあうべきである。急ぎたい人は「立ち止まりたい人・右側に立たざるを得ない人・右側を塞がざるを得ない状況の人がいる」と理解すべきだし、止まる人も「急ぎたい人もいる」と理解し、互いが出来る範囲で尊重し合えばよい。それが出来ないのなら、「歩く人」も排除すべきであると同時に「大きな荷物の人」も「高齢者など足が悪い人の単独利用」も「ベビーカーの利用」も注意書きに則らないものはすべて排除すべきである。

そして今、実情を考慮した上でできる安全対策は「歩く・歩かない」よりもまずはエスカレーター利用時は「なるべく手すりに摑まる」「降り口で立ち止まらない」ということ、混雑時の階段の各方向優先レーンの逆走防止の徹底、本来エレベーターの利用を推奨されている人達が優先的にエレベーターを利用できることを徹底・その動線をわかりやすくすること。これらが今できる、多くの人にとって優しい安全対策なのではないか。