「靴下常備」は一般常識なのかい?

自分が"常識"だと思っていることが、必ずしも誰にでも通じる"一般常識"であるとは限らない。自分が「これはマナーだ」「これが常識だ」と思って居ることが、実はその界隈でのみ通じるローカルルールかもしれないし、自分の都合の良いようにねじまげてしまったマイルールかもしれない。誰にも彼にも「これはマナー」「これが常識」と自分の思うそれを押し付けるのは、それこそ世間知らずな非常識だと私は思う。

 

ツイッターで「サンダルに素足で出かける時は靴下を持ち歩く」「サンダルに素足で家にお邪魔する時にはサンダルを脱ぐタイミングで靴下を履く」という"マナー"について論争になっているのを見た。私はそんなマナーを知らなかったので検索してみると、ママ友(という言葉って、気持ちが悪くて私は嫌い)同士であーだこーだ言い合ってお育ちマウンティングしてる掲示板がいくつも出てきて、正直その時点で「うわぁ…そういう土俵でのお話か…」という感じだったのだけれど。私の周りの友人は小学校や中学校から私立に通っている人間がほとんどで、それなりにちゃんとした家の子が多い。しかし、人の家(あるいは靴を脱ぐタイプのお店)に上がる時に靴下をとりだして履き始める人にいまだかつて出会ったことがなかった。そもそもマナー云々気を付けなければならない際には、靴を脱ぐ予定の有無にかかわらず素足にサンダルで出かけることはあまりないからかもしれないけれど…。

 

「素足で人様の御宅にお邪魔するのは失礼」ということはわかる。だから、人様の家に遊びに行くときは靴下(ストッキングでも)を履いていくというのもわかる。しかし「素足で出かける際は靴下を持ち歩くのがマナー」は、いやいやそれはローカルだろ!と思ってしまう。玄関で「おじゃまします(靴下着用)」「おじゃましました(靴下ぬぎぬぎ…)」という光景を想像してみると全然スマートじゃないし、むしろみっともなく思える。その行為もそうだし、素足前提のコーディネートにちょこんと靴下を履いている様も全く美しくない…。私がみた掲示板では「これはマナーですから」「靴下を持ち歩かないなんて、親が教えてくれなかったのかな…」「そういう時にサッと靴下を履いたほうが品良く見られますよ」などとそれをしない人を声高らかに見下している雰囲気だったけど、それはどうも同意できない。

靴下を持参することを否定するわけではない。現代でそれをやるのはスマートじゃないと個人的には思うけれど、それらも気遣いなのだから。でもそれが一般的な"マナー"だったのは、お邪魔する先が和室であること前提の時代のお話じゃないかと思う。茶道では茶室に素足はNGで、基本的には和服に足袋。お洋服で茶室にあがる場合は白い靴下を持参し着用するものだから。というのも、昔は道がコンクリートじゃなかったし足袋カバーなんていう物もなかったので、足袋はとても汚れやすかった。そのため、茶室という神聖な場所にあがる時には綺麗な替えの足袋を持参していたのだ(現在は道は整備されているし足袋カバーもあるのでそこまでしなくて大丈夫だけど)。そしてお洋服でお茶室にいく場合にも、足袋の代わりという意味と綺麗なものに履き替えるという意味も含め、少し不格好でも白い靴下を履くのが一般的なマナーとなっている。おそらくこのようなところから、おばあちゃんからおかあさんへそして娘さんへ…とこれをあらゆるところで通ずるマナーとして教えられたのでしょう。しかし、この「神聖な茶室での靴下持参」の意味合いを考えると、道も整備されていて服装も家も洋風がデフォルトとなった現代にはあてはまらないものだと思う。みんながみんなに浸透していなくて当然である。

もし小さい子供(素足)を連れていて、人の家や屋内施設にあがる時にささっとその子に靴下を履かせることがあれば「しっかりしたママ」という風に思うかもしれないけれど(子供が素足で出かけると大人じゃありえないくらいに真っ黒けに足を汚してたりするし、子供はスリッパを出されてもちゃんとはいていられずにどこかでいつのまにか脱いでいたりするし、冷房の中で足が冷えちゃうし、とか色々な面で靴下はかせちゃうのが合理的なのかもね!という感じ)、大人が靴下を出してきてはきはじめたら「どうしたの?」と思ってしまう。勿論、相手が靴下を履いたところでこちらに不都合はないから結構だけど(人によっては「うちの床やスリッパが汚くて嫌なのかな?」と捉えてしまって逆に失礼なときもあるのかも。)。ちゃんとした人として見られたいなら、人の家やお店のお座敷にあがらないとわかっている時でも"人と会う"という時点で常に靴下やストッキングをはくべきなのだ(ちなみに茶室ではストッキングもNGですが)。私個人的としては「素足で失礼します」の一言を言える人や、携帯用スリッパを常に持っている人(自宅に招く際にはこちらで出すから不要だけど、公共の施設でスリッパもろくにないのに土足厳禁の施設ってたまにあるからね)に対しては「きちんとした人だな」と思うけれど、靴下を持ち歩いている人には特に上品だとか思わないです。おばあちゃんから習ったのかな、お茶室とか出入りする習慣があるのかなとかそういう感じ。

 

「素足の際は靴下を持ち歩くのがマナーであり、持ち歩かない人は非常識!」と非難する人には、「もし持ち歩かない人が気になるようならあなたは人を家に招くべきでない」ということは言っておきたい。素足で床を歩かれるのが嫌ならばスリッパを出せばいいし、スリッパすら素足ではかれたくない人や、一日履いてた靴下は汚いから靴下履き替えろと言う人など、客と自分の"マナー""常識"の認識の些細な不一致を想定できない人は、人を家に招くべきではないと思う。誰から見ても大迷惑な非常識さんに対してまで我慢しろとは言わないが、些細なことであれ嫌だこれはダメってマナーを押し付けたり見下したりするよりは、「自分が思う"常識"がすべての人にとっての"常識"でない」ということを理解し、「招く側は客に気を遣わせない」ということを身に着けたほうがよほど上品。マナーは自分のお上品アピールのためにあるものでもなければ、自分が不快にならないために他人に押し付けるものでもない。お互いが気持ちよくすごすためのお互いの気遣いなのだ。臨機応変に対応できてこそ、"上品な人"だと私は思う。エリザベス女王が、客人に恥をかかさぬようフィンガーボールを飲んだというお話のようにね。